30代女性、汗が止まらない。肩こり・生理痛

 

汗をかきやすい。肩こり。たまに腰痛。

日常生活のなかで、ふとした動きでも大量に汗をかいてしまう──

そんな悩みを抱えた女性が、当院に相談に来られた。

慢性的な肩こりや、たまに出る腰の重さもあり、

「自分の体がどこかうまくかみ合っていないのではないか」

そんな不安を抱えながら過ごしてきたとのことである。

汗に関しても、運動したわけでもないのに人目を気にするほど汗が出てしまうことがあり、

どう向き合っていけばよいのか悩まれていたようであった。


初回から3回目──体が少しずつ、深いところから動き始める

初回の施術後、翌日は「体が軽くなった」と感じられた。

しかし、2日目にはやや重だるさを覚えたという。

こうした経過は、鍼灸の現場では決して珍しいことではない。

体の奥深くに働きかけるとき、表面上の感覚が一時的に揺れることはよくある。

体は変わることに戸惑いながらも、「新しいバランスを探し始めているのだ」と捉えている。

3回目の施術を終えたころには、生理痛が大きく軽減していた。

体全体の流れが、少しずつ確かに変わり始めている──そんな手応えを感じた。


4回目〜5回目──汗と体の感覚に変化が現れる

この方において特に印象的だったのは、施術中の汗の反応であった。

最初の数回は、鍼を行うとすぐに大量の汗をかき、

その汗がなかなか収まらない様子がみられた。

そこで、通常の刺入鍼ではなく、

皮膚にそっと触れるだけの接触鍼を選択した。

背中全体を「面」としてとらえ、強い刺激を避けながら、

体にじわりと変化を促す方法である。

すると回を重ねるごとに、

汗の出方が徐々に落ち着き、

5回目の施術後には、「汗はかくけれど、前ほど困らない」

という実感がご本人から自然に語られるようになった。

汗かき体質そのものが劇的に変わったわけではない。

しかし、汗が「体の声」として自然なリズムで現れるようになったことは、

大きな変化のひとつであった。


汗かき体質は、その人の個性でもある

汗をかきやすいという体質は、

必ずしも「異常」であるわけではない。

むしろ、体がしっかりと熱を生み、熱を逃がしている証でもある。

問題となるのは、その汗が生活に支障をきたすほどコントロールできないときである。

今回のケースでは、鍼灸によって体全体のバランスを整えることで、

「汗が出る→止まらない→困る」という流れから、

「汗が出る→自然に収まる」という、より穏やかなリズムに移行していった。

「汗かきだね」と笑えるくらいの余裕を持てるようになること。

それが、体と向き合ううえで一つの大切な転換点だと私は考えている。


「正常」とは何か──私自身の実感も交えながら

そもそも、「正常」という基準は非常に曖昧なものである。

医学で使われる正常値は、統計上の平均にすぎない。

個々人にとっての「自然な状態」とは、必ずしもそれに一致しない。

私自身も、かなり汗をかきやすい体質である。

運動をしているとき、仕事に没頭しているとき、

汗をかくことはむしろ心地よく、活力の源だと感じている。

ただ、プライベートな場面で汗が止まらないと、やはり困ることもある。

そんな経験を通じて、私は思う。

汗を完全になくすことではなく、

自然に出て、自然に収まる体のリズムを取り戻すこと。

それこそが、本来の健康に近づく道なのではないかと。

まとめ──変わること、受け止めること

体の変化は、直線的には進みません。

良くなったり、立ち止まったり、また少し戻ったりしながら、

少しずつ、本来のリズムを取り戻していくのだと思います。

今回のように、

「汗は出るけれど、前より気にならない」

そう感じられるようになることは、

単なる症状の消失ではなく、

自分の体と生き方との関係が、少しずつ変わったということではないでしょうか。

すべてを押さえつけるのではなく、自然な体の声を聴きながら、穏やかに共に生きること。

その営みを、これからも大切にしていきたいと考えています。