60代女性。特定の季節になると体が辛くなる

季節と体のあいだにある揺らぎ
右膝の痛みで来院された60代の女性。
立ち座りや階段の上り下りが気になるとのことで、初回の施術では明確な改善が見られました。
2回目までのあいだは膝の痛みも出ず、「だいぶ楽でびっくりした」とのこと。
ところが、3回目のころから再び症状が出たり引っ込んだり。
その日の体調によっても変化するようでした。
いま痛い場所と、それが生まれるまでの流れ
くわしく話をうかがうと、膝だけでなく、首や背中のこり、めまい感なども慢性的にあるとのこと。
とくに春先になると、毎年のように体調を崩すという自覚があるそうです。
寒暖差、気圧、強い陽気。
そのどれかひとつが原因というよりは、少しずつの負荷が重なって、あるとき「症状」として現れる。
そのようなケースは少なくありません。
また、この方は週末にハードな仕事が入ることが多く、疲れを感じてもなかなか休めないという生活も続いていました。
「すっきり治る」と「揺れながら整う」のあいだ
施術によって一時的に症状が軽くなっても、生活の中で再び負荷がかかれば、体はまた元の状態に引き戻されることがあります。
そうなると、「治っていない」と感じるかもしれません。
けれど、体というのはゆっくりと方向を変えるものだと思います。
ときに揺れながら、少しずつ「戻りにくい」状態を育てていく。
その過程に寄り添うのが、私たちのような仕事だと考えています。
鍼灸って私になってるかな?と思っている方へ
一回で劇的に変わる場合もあれば、
何回かの施術のなかで、「あ、そういえば最近あれが気にならないかも」と変化に気づくこともあります。
人によって、そのスピードも、手ごたえの出方も違います。
ただ、今出ている症状を「点」として扱うのではなく、その人の体の歴史として見る、というスタンスは、どんな場合でも変わりません。
体が変わるときに起きる、静かなサイン
今回のケースでは、「膝が楽になった」よりも、そのあとに「また戻ってきた気がする」と言ってもらえたことが、むしろ大事なサインでした。
それは、自分の体の揺れに気づけるようになってきたということでもあるからです。
私たちがやっているのは、「治す」ことだけではありません。
その人が自分の体の変化に気づけるようになること。
その変化の仕方を一緒に見つめていくこと。
そんな時間を、日々の施術の中で積み重ねています。
おわりに
「また春がくる」
そのたびに同じ場所が痛む、気持ちが落ちる、よく眠れない。。
そういうくり返しを、どうにかしたいと思う人は多いはずです。
くり返すということは、まだ終わっていないということでもある。
けれど、そのなかに変化のきざしがあるとすれば、
それは必ずしも「治る」ではなく「変わっていく」のかもしれません。
その変化に名前をつけられなくても、体は少しずつ、違う道を歩き始めていることがある。
そんなふうに考えながら、鍼灸という手法を用いています。